私の会社の社長室にある金庫の中身に驚愕した話

子どもが保育園に入れることになり、1番最初に勤めたのは、自宅のすぐ近所にある印刷工場でした。そこは印刷業務に携わっている職人さん5人と、社長、次期社長であり営業職の社長の息子さん、社長のお嬢さんも事務として働いていました。私はたった1人居る、印刷の元になる版を作っている人の助手として、パート待遇で勤め始めました。私の仕事は版ができるのを待ち、それを1階の印刷工場に運ぶことでした。待ち時間ばかり長くとても暇で、暇疲れしてしまう程でした。しかも社長の息子さんとその版を作る職人さんは折り合いが悪く、私の前で仕事に関する口ゲンカなどをされることもあり、とても居心地が悪かったです。

社長や社長のお嬢さんはのほほんとしていて、2人の諍いにはわれ関せずという感じでしたが、その理由がなんとなくわかったのは、社長室の金庫の中を見せられた時です。3時のお茶の時間に社長室に招かれ、お茶をしながら社内の人たちと話したのですが、その時に社長が、社長室の大きな金庫から出してきたのは、社長のお嬢さんの、小さい頃から描きためてきた、絵画や図工の作品でした。自慢の娘の作品を見せびらかすために、会社の金庫に入れていたのです。横目で見た限りその金庫には、他に重要そうなものは入っておらず、その金庫は子どもが描きなぐった芸術性を感じられない作品ばかりが大切におさめられていました。社長はお嬢さんばかり可愛がり、その社長が選んだ版職人さんだから、可愛がられていない息子さんとも合わないのかもしれないと思いました。

退屈過ぎてその職場は、半年ほどで辞めてしまったのですが、会社の金庫に重要書類ではなく、我が子の図工の作品をしまっている社長なんて、どうなんだろうと思っていましたら、やはり数年後、その会社はなくなってしまいました。倒産か廃業かちょっとわからないのですが、あの時の金庫の中身のことが、今でも忘れられません。